お世辞にも清潔とは言えないトイレの床に、

     正体をなくした状態のウエハラが転がっているのが発見されたのは

     空が白み始めたころだった。



第一発見者である初老の女性清掃員には、

なぜだかどうも洗面所付近に掃除用具がまとめて置いてあるように見えたという。

よほど存在感がなかったらしい。

しかもこの初冬の時期に、いつからかは知れないがシャツ一枚という軽装だったため、

体は芯まで冷え切り、予断を許さない状況であった。

ゆえに急ぎ、体を温めつつの検査入院とあいなり。今に至る。


警察病院の殺風景な一人用個室のベッドに青白い顔で眠り続ける、清掃用具の束に間違われた男。

その傍らには、誰も予想出来ない人物が彼を見守っていた。クロヤナギである。


「まったく、昨夜からジャブロは捕まらないし、あの間抜け。

私のかわいい部下っていうか下僕を何だと思っている。監督不行き届きで処分対象にするぞ・・・」

室内がよほど暖かかったのか、ライダースジャケットを豪快に脱いで

無造作にベッド脇の引き出しつきワゴンの天板に押し付けた。




・・・死人かコイツは。






まじまじと、その寝顔をみつめてみる。

元々、無口で顔色のよろしくない奴だと思っていたが、これほどとは。





普通なら、見ているこちらが体調に異変をきたしそうだ。





だが不思議とその表情を飽きもせずに眺めていると、ささくれ立っていた心が鎮まるのも事実だった。



ほとほと、掴めない奴。



「しかし全然変わんねーなコイツ。よく見りゃかわいい顔してんのに寝てる時までも顰めっ面っつうか、辛気くさい顔でさ。

なんかでも、放っておけなくてな。」

見舞い人はもうひとりいた。

コダイスミオ、その人。



「ところでなんでコイツ、一人部屋とかいってVIP待遇なの。」

「・・・上の判断らしいですが。」

そういうとクロヤナギは丸い座面のスチール椅子に腰掛け、革の黒いパンツに包まれたしなやかな脚が優雅に組まれる。

「へぇ。」

気のない返事をしたところで、改めてウエハラの顔を見遣る。

そして懐かしそうに、その髪を優しく手ですいてやった。



「髪は長くなったけど、時が止まってるみてえだ。・・・あれか?プリンデンコーみたいに、

どっかの企業と契約してんのかな、『おめーの人形発売するからずっと風貌かえるなよ』、みたいな。」


「・・・だったら髪形も変えられませんよ。それに、プリンじゃなくてプリンセスです」



本当に、自分が興味のあることしか覚えないんだな貴方は。



いや、それを言ったら自分もそうじゃないか。



クスリ。クロヤナギは忍び笑った。




「・・・・。お前今笑ったろ・・・。」



「いいえ?寝不足なんじゃないですか?」



「まあ、今日中には退院させますよ。まだまだ人手が足りなくてね。」





「・・・鬼か。」

そう呟くと、ふと、自分がこの男と初めて会った時の事を思い出していた。

「・・・俺らも鬼だったってことか・・・」

「は?」」

→やっとクロさんが出せた・・・!
え、コダイ?
ええ、書いた本人が予想外でした。