いちじく。


もくもくと手の中の果実を口に運ぶ男が居た。

ある種奇妙なのは、警察署の屋上で、それも一人で、欄干に上半身をあずけて寒風に髪をなぶられながら平然としていることだ。

「よう!・・・それ・・・なに?」男の背後から、聴き飽きた明朗な声が響いた。

「・・・いちじくも知らないのか。いい大人が。」


振り向きもせず、ただ、ぼそりと返した。

「もっとパっとした果物しか知らないからさ。パイナップルとかメロンとか、マンゴーとか。

ミヤザキのハウス栽培マンゴー、知ってる?めっちゃめちゃ高いけどアレすっげうンめーぜ。忘れらんないねぇ。。。」

「自腹で買いつけたわけでもないだろうに」

「そりゃ貰いもんだよ。わるかったね。」

晩秋の昼の陽射しは、二人の影を長く映す。

「つうか、アンタ、昼メシ食ってないじゃん」

「・・・見ていたのか」

「まあ。そういうこと。」

「薄気味の悪い。。。。」

黒いスーツの男が、屋上の風に吹きすさぶられながら、皮もむかずになおも地味な果物にかぶりつくその姿はなかなか異様であった。

「・・・どうにも食欲が湧かなくてな・・・飯粒すら喉を通らない。それに・・・」

「それに?」

「・・・味の鋭い物は、元来好めない・・・」

「全身淡白なんだねぇ。ある意味貴重だよ」



「食事を愉しんだ記憶もない。生命維持に不可欠だから仕方なく噛み砕いて、流し込むだけだ」

「身体にも心の健康にも悪いことで・・・」

掌のなかにある果実はあとひとつ。

「しっかし、アンタが食ってると旨いもんでもまずそうに見えてくるもんだな。」

「けなしてるつもりか。」

「どんだけ不味いか、一口くれよ」

そう言うと、両手で頬を包み込み、体格差にものを言わせて無理にこちらへ向かせ、唇と唇が触れる寸前まで顔を近づけた。

「・・・」

「あれ?ビビんないか、やっぱ。」

眉根にひとすじ皺をつくり、一層冷めた目で白い髪の男をねめつけた。

「・・・さっさとメシを平らげさせてくれ。あとお前には、もっと値の張るハンドクリームを勧める・・・おかげで俺の頬が擦れた」

「青ッパナ垂らしてる頃から使ってるハンドクリームだ。悪く言うなよな。」


「・・・やっぱ不味いわ、アンタの今日の昼メシ。」

数秒後。

まだ原型をとどめているウエハラの手の中のいちじくに触れながら、男はそう笑った。


→うわ、なんだコレ・・・。